Bluetoothモジュールの無線性能は、そこに接続されたアンテナ次第である。市場で最も感度の高いSoCを買っても、アンテナが不整合・同調ずれ・バッテリーのそばに埋もれていては、実効到達距離は崩壊し、認証も失敗する。本稿ではBluetoothモジュールのアンテナ実装を第一原理から解説する。リターンロス、整合回路、グラウンドプレーン、そしてリンクバジェットを静かに10 dB食うミスについて述べる。
アンテナ接続の3つの方法
| 方式 | 実装面積 | 利得 | 放射効率 | 同調 | BOM | 設計工数 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| チップアンテナ | 3.2×1.6 mm | 0〜-2 dBi | 40-60 % | 整合で可 | 低 | 中 |
| PCBパターン | 15-25 mm | 1-3 dBi | 50-70 % | 整合で可 | なし | 高 |
| U.FL+ホイップ | ケーブル次第 | 2-5 dBi | 70-90 % | 固定 | 高 | 低 |
チップアンテナは最も楽:基板に実装し、整合回路を付け、VNAで同調する。PCBパターンはBOMは0だが基板面積と同調作業が必要。外付けホイップは効率は良いがコネクタとケーブルと実装が要る。
リターンロス、S11、VSWR
アンテナはある1周波数でのみ50 ohm負荷である。そこから外れると電力を反射する。反射はS11(リターンロス、dB)とVSWRで表す。
| S11 (dB) | VSWR | 反射電力 |
|---|---|---|
| -6 | 3.0 : 1 | 25 % |
| -10 | 1.92 : 1 | 10 % |
| -15 | 1.43 : 1 | 3.2 % |
| -20 | 1.22 : 1 | 1.0 % |
2.4 GHzでは通常 S11 <= -10 dB(反射<=10 %)を目標にする。Bluetoothモジュールが+8 dBmで-3 dB不整合(S11~-3 dB、反射~50 %)の場合、実効放射は+5 dBmになり、到達距離の半分を捨てている。
整合回路:ZLを50 ohmへ
ほとんどのチップ・PCBアンテナは2.44 GHzで50 ohmから遠いインピーダンス(典型的に20+j35 ohm〜40-j20 ohm)を示す。1個の直列コンデンサと1個の並列インダクタ(またはその逆)からなるL型またはpi型回路で、スミスチャート上の中心点に回転させる。負荷22+j35 ohmの例:
<h1>目標: ZL -> 50 ohm @ 2.44 GHz</h1>
ZL = 22 + 35j
Xc = -35
C_series = 1 / (2*pi*2.44e9 * 35) # ~1.87 pF -> 1.8 pF
R_ratio = 50 / 22
L_shunt = 3.9e-9 # 3.9 nH
while s11(measure()) > -10:
adjust(C_series, L_shunt)
0201/0402のNP0/C0G部品を使う。許容差と温度特性が結果を支配する。ここで10 %の容量ドリフトはS11を数dBずらす。
グラウンドプレーンとクリアランス
リファレンスグラウンドはアンテナの一部である。
- アンテナの周囲・直下に 5-15 mmのクリアランス を確保(銅・配線・部品・シルクのグラウンド不可)。
- グラウンドプレーンは少なくとも 15×15 mm。小さいとインピーダンスが上がりS11が-5 dB付近に。
- アンテナは 50 ohm制御インピーダンスのマイクロストリップ で給電。
- アンテナを 筐体壁やバッテリーから離す。Li-Poが2 mm後ろだと50-150 MHz同調ずれし、5-10 dBの遮蔽が加わる。
放射パターンと向き
チップアンテナは基板面内ではほぼ無指向性だが、基板に垂直な方向に深いヌルを持つ。天井に貼るBeaconはヌルが人がいる床を向くので、 平坦に、放射部を下に 向けて実装する。
人体とSAR
2.4 GHzは水に吸収される。放射部を 人体から>=5 mm 離す。それ以上近いと効率低下とともにSAR限度(FCC 1.6 W/kg/1g、EU 2.0 W/kg/10g)に近づく。ウェアラブルタグは自由空間ではなく人体装着で同調すべき。
金属筐体はすべてを同調ずらす
Bluetoothモジュールを鋼製筐体内に入れると共振が移動する。解決は 最終筐体とバッテリーを装着した状態で 整合回路を同調すること。アンテナ窓のない密閉金属箱はファラデーケージであり、外部給電か認可RF窓が必要。
測定方法
- VNA がS11とスミスチャートを与える——整合回路を正しく同調する唯一の方法。
- 電波暗室での 放射対伝導効率 が真実を語る。
- フィールド試験(10 mでのRSSI)は粗い誤りは拾うが微細な同調ずれは見逃す。
よくあるミス
| ミス | 影響 |
|---|---|
| グラウンド<15×15 mm | インピーダンスシフト、S11〜-5 dB |
| クリアランス内の銅 | 同調ずれ、ヌル |
| 整合回路なし | S11〜-3 dB、~50 %反射 |
| バッテリー直置き | -10 dB同調ずれ、遮蔽 |
| 誤った給電インピーダンス | 定在波 |
| 自由空間のみ同調 | 筐体内で失敗 |
説明できる到達距離の計算
自由空間では リンクバジェットが+6 dBなるごとに到達距離が2倍 になる。両端で+3 dBiアンテナは+6 dB→2倍。しかし50 %効率アンテナは-3 dB ERP→~0.7倍。結論:悪いアンテナの「高出力」モジュールより、整合された効率的なBluetoothモジュールの方が距離で2-3倍勝る。
OEMチェックリスト
1. ベンダーのリファレンス整合回路とレイアウトをそのままコピー。
2. 初回試作でVNA同調を予算化。
3. 機構図でクリアランスを定義。
4. 最終筐体とバッテリーで認証。
5. データシートにはTX電力だけでなくアンテナ利得と効率を明記。
Bluetoothモジュールはチップではなくシステムだ。アンテナを正しくすれば、残りのリンクバジェットは自ずと整う。