Bluetoothモジュール を買うとき、データシートに書かれた Bluetooth コア仕様のバージョンが、実際に得られる機能を決める。ベンダーは「5.3」「5.4」を大きく印字するが、バージョン名は機能リストではない。本稿では各仕様改訂が電波・PHY・プロトコル層で何を変えるか(到達距離、スループット、測位、音声、セキュリティ)を整理し、ファームウェアが実際に使う機能でモジュールを選べるようにする。

Bluetooth 5.0(2016)

初の大幅 LE 刷新:

  • 2M PHY:シンボルレートを 2 Msym/s に倍速。1M PHY 比でオーバーエアの生スループットは約 2 倍。
  • LE Long Range(Coded PHY):S=2 と S=8 の符号化が前方誤り訂正を加える。S=8 は約 +12 dB のリンクバジェット増で、自由空間では理論約 4 倍の距離(実用は 2-3 倍)。
  • Advertising Extensions:拡張広告でより大きなペイロード(拡張で最大 255 バイト、補助パケット連鎖可)と、コネクションレスかつ決定的な Periodic Advertising。

Bluetooth 5.1(2019)

  • AoA / AoD Direction Finding:Constant Tone Extension(CTE)の追加で、受信機が 1 MHz/アンテナで IQ データをサンプリングし角度を推定できる。AoA は受信側の切替アンテナアレイが、AoD は送信側が必要。
  • これにより平凡な Bluetoothモジュール が測位資産へ変わったが、シリコンが CTE を露出し、基板が(または対応して)アンテナアレイを備える場合のみ。

Bluetooth 5.2(2020)

  • LE Audio:isochronous チャネルと LC3 コーデックで、ブロードキャスト音声と低ビットレート高音質を実現。
  • EATT(Enhanced ATT):別 L2CAP チャネルで ATT を走らせ、セキュリティ向上と並列トランザクションで旧単一ベアラの停滞を解消。
  • LE Power Control:ピア間で段階的な TX 電力調整を行い、近接電力を削減し共存性を改善。

Bluetooth 5.3(2021)

  • Periodic Advertising with ADI:リンク層での重複フィルタで無駄なスキャンを削減。
  • Connection Subrating:低デューティ比へ即時降下し、再交渉なしで高速復帰。
  • Channel Classification Enhancement:ペリフェラルが中央に不良チャネルを通知し、リンクがそれらを回避。
  • Encryption key size enforcement:最小未満のネゴシエーションを拒否。

Bluetooth 5.4(2023)

  • PAwR(Periodic Advertising with Responses):コネクションレス双方向。電子棚札(ESL)や、数千のタグが予定スロットで応答する大規模ブロードキャスト網向け。
  • Encrypted Advertising Data(EAD):ペイロードを暗号化しつつ、未ペアリングスキャナにもヘッダを見せる。
  • LE GATT Security Levels:どの属性にどのセキュリティを要するかの詳細制御。

機能マトリクス

機能 5.0 5.1 5.2 5.3 5.4
2M PHY Yes Yes Yes Yes Yes
LE Long Range Yes Yes Yes Yes Yes
AoA / AoD No Yes Yes Yes Yes
LE Audio / LC3 No No Yes Yes Yes
EATT No No Yes Yes Yes
LE Power Control No No Yes Yes Yes
Connection Subrating No No No Yes Yes
Channel Classification No No No Yes Yes
PAwR No No No No Yes
Encrypted Adv Data No No No No Yes

スループットと距離の計算

  • 1M PHY 生 ~1.4 Mbps;オーバーヘッド後アプリ ~0.27 Mbps。2M PHY は両方約 2 倍。
  • Coded PHY S=8 生 ~125 kbps だが、+12 dB バジェットが肝。1M PHY でリンクが -92 dBm で閉じるなら、Coded S=8 では同じ受信機が ~-104 dBm を許容し、理想パス損失で距離約 4 倍。
  • 目安:+6 dB ごとに自由空間距離約 2 倍、ゆえに +12 dB ~ 4 倍。だが壁やノイズが実用では半分を食う。

用途別の最低バージョン

用途 最低バージョン
ビーコン/広告専用 5.0
角度付き検知(AoA) 5.1
ヘッドセット/LE Audio 5.2
省電力センサメッシュ 5.3
ESL/大規模双方向放送 5.4

陥り穴

  • 「5.3 モジュール」は LE Power Control が有効とは限らず、ベンダが実装する必要がある。
  • 古いシリコンが自称仕様より前の世代のことがあり、SIG サイトの Qualified Design ID(QDID)を確認すべき。
  • モジュールがそのバージョンで SIG 認定されていても、その機能を無効にしたファームウェアが出荷されることがある。
  • 「一応」5.4 を買うと 5.0 で足りる仕事に BOM を無駄にする。

箱の最大番号ではなく、ファームウェアが呼ぶ機能でバージョンを選べ。認定済みリファレンスとして、各パーツが実際に実装する Bluetooth 機能を記した弊社の Bluetoothモジュール ラインアップを参照されたい。