屋内測位エンジニアは常に直面する疑問:RTLS(リアルタイム位置特定システム)にはBLEタグとUWBタグのどちらを展開すべきか?答えは決して単純ではありません。これら2つの技術は重複する問題を解決しますが、根本的に異なる原理に基づいています。本記事では、マーケティング資料ではなく実際のシリコン仕様と実測データに基づき、測位精度、有効到達距離、消費電力、インフラコスト、レイテンシ、タグ密度、環境堅牢性の各次元で実用的な比較を行います。
当サイトではBLEタグ vs RFIDおよびBLEタグ vs NFCを既に取り上げました。UWBは比較対象として頻繁に登場する第3の技術であり、BLEとの性能およびコストギャップが最も大きい技術です。
1. 技術基礎:各システムの距離測定原理
1.1 BLEベースの測距
BLE測位は2つの根本的に異なる技術に依存しています:
RSSIベース測距は受信信号強度から距離を推定します。自由空間パスロスモデルでは距離dにおけるRSSIは次式で与えられます:RSSI(d) = TX_power − 20·log₁₀(d) − 20·log₁₀(f) − 27.55。dはメートル、fはMHz、TX_powerはdBmです。2.4 GHzではRSSI(d) = TX_power − 40 − 20·log₁₀(d)と簡略化されます。0 dBm送信の場合、1 mで約−40 dBm、10 mで約−60 dBmです。問題は実際の環境が自由空間ではないことです。壁、金属棚、人体は距離に比例しない5–20 dBの追加損失を導入し、RSSIベース測距の精度は屋内環境で典型的に±2–5 mとなります。
AoA/AoD方向検出(BLE 5.1+)はアンテナアレイとCTEの位相サンプリングを使用して到来角を推定します。λ/2間隔の4素子リニアアレイでは角度分解能は約15–30°で、5 mの距離では1.3–2.6 mの横方向位置誤差に相当します。8素子アレイでは7–15°に改善し、5 mで0.6–1.3 mとなります。AoAにはアンテナアレイを備えた専用アンカーノードが必要です。
1.2 UWBベースの測距
UWBはTime-of-Flight(ToF)で距離を測定します。送信機が短パルス(約2 ns)を送信し、受信機が到着時間を測定します。信号は光速(約30 cm/ns)で伝搬するため、2 nsパルスは直接サブメートルの分解能を提供します。TWR(双方向測距)ではタグがポールを送信し、アンカーが応答し、タグが往復時間を測定します。距離 = (T_round − T_reply) / 2 × c。クロックドリフト補正により±10–30 cmの精度を達成します。TDoAでは複数のアンカーが同じタグ送信の到着時間を記録し、到着時間差が双曲線を定義します。4+アンカーでタグ位置は双曲線の交点となります。
2. 精度比較:実際に成立する数値
| 方式 | 技術 | 典型精度 | ベスト | ワースト(NLOS) |
|---|---|---|---|---|
| RSSI三辺測量 | BLE | ±3–5 m | ±2 m | ±8–10 m |
| 近接 | BLE | ±3–5 m | ±1 m | ±10 m |
| AoA(4素子) | BLE 5.1+ | ±1–2 m | ±0.5 m | ±3–5 m |
| AoA(8素子) | BLE 5.1+ | ±0.5–1 m | ±0.3 m | ±2–3 m |
| TWR | UWB | ±10–30 cm | ±5 cm | ±50–100 cm |
| TDoA | UWB | ±20–50 cm | ±10 cm | ±1–2 m |
精度のギャップは構造的です。BLEは2.4 GHzで2 MHzチャネルで動作し、信号帯域幅が時間分解能を約500 nsに制限します。これは150 mの距離分解能に相当します。UWBは最低500 MHzの帯域幅を使用し、2 nsの時間分解能(60 cm)を提供します。この違いはファームウェアのチューニングではなく物理法則に基づくものです。
3. 到達距離比較
| パラメータ | BLE(0dBm) | BLE(+8dBm) | UWB |
|---|---|---|---|
| 送信電力 | 0 dBm | +8 dBm | −41 dBm/MHz |
| 受信感度 | −93 dBm | −93 dBm | −100 dBm |
| 屋内実用距離 | 10–30 m | 20–50 m | 10–25 m |
BLEには顕著な到達距離の優位性があります。+8 dBmのBLEタグは6.3 mWを送信しますが、UWBタグはFCC Part 15により−41.3 dBm/MHz EIRPに制限されます。500 MHzチャネルで総UWB EIRPは−14.3 dBm(37 μW)で、+8 dBm BLEタグの約170分の1です。1000 m²の倉庫でBLEアンカー4–6台 vs UWBアンカー8–12台が必要です。
4. 消費電力:バッテリー寿命
| パラメータ | BLE(CR2032) | UWB(CR2032) | UWB(Li-ion) |
|---|---|---|---|
| 送信電流 | 4.6 mA | 14 mA | 14 mA |
| 受信電流 | 4.6 mA | 22 mA | 22 mA |
| 平均電流 | 16 μA | 113 μA | 117 μA |
| バッテリー寿命 | 1.6年 | 81日 | 178日 |
UWB測距はTWRがタグの送信と受信の両方を必要とし、DW1000受信機が22 mAを消費するため電力消費が大きいです。BLEアドバタイジングは送信のみで3 msで完了します。これがBLEタグがCR2032で数年間動作できる一方、UWBタグが数ヶ月しか持たない理由です。
5. コスト比較
| 要素 | BLE | UWB |
|---|---|---|
| タグ(1k+) | $3–8 | $15–35 |
| アンカー | $50–120 | $150–400 |
| 100m²あたり | $50–300 | $300–1600 |
500 m²施設に1000タグ展開でBLE総計$3,250–9,500 vs UWB総計$16,500–39,000。UWBはBLEの2–5倍です。ゾーンレベル追跡で十分な場合、精度差(±3 m vs ±30 cm)が3–5倍のコスト増加を正当化しません。
6. レイテンシと更新レート
BLE RSSI: 200 ms–2 s、BLE AoA: 100–500 ms、UWB TWR: 10–50 ms、UWB TDoA: 10–100 ms。UWBの優位性は決定論的測距交換(6–10 ms固定)から生じます。高速移動資産では100 msのレイテンシが重要です。
7. スケーラビリティ
BLE RSSI: アンカーあたり500–2000タグ、BLE AoA: 100–500、UWB TWR: 50–200、UWB TDoA: 500–5000。TWRは双方向通信でチャネルを占有するため最も制約が大きく、TDoAはタグが送信のみでスケーラビリティに優れます。
8. 環境堅牢性
UWBは500 MHz帯域幅で2 nsの時間分解能を提供し、60 cm以上離れたマルチパス成分を分離できます。BLE RSSIは2 MHz帯域幅で500 ns分解能しかなく、マルチパスを全く分離できません。UWBは6.5–8 GHzで動作し、2.4 GHzのWi-Fi干渉を受けません。
9. ユースケース判定マトリックス
| 用途 | 必要精度 | 推奨 |
|---|---|---|
| 倉庫ゾーン追跡 | ±3–5 m | BLE RSSI |
| 病院資産追跡 | ±2–3 m | BLE RSSI/AoA |
| 博物館ナビ | ±1–2 m | BLE AoA |
| AGVナビ | ±20–30 cm | UWB TWR |
| スポーツ追跡 | ±10–20 cm | UWB |
| 衝突回避 | ±30–50 cm | UWB TWR |
10. ハイブリッドアプローチ
BLE+UWBハイブリッドタグはBLEのみモード(15–20 μA)でスリープし、コマンドでUWBを有効化します。バッテリー寿命を数ヶ月から数年に延ばしつつ、重要ゾーンでUWB精度を提供します。ハイブリッドタグは$20–45で、NXP SR150やQualcomm QCC74xが利用可能です。
11–15. 展開考慮事項、落とし穴、チェックリスト、結論
BLEアンカーは10–20 m間隔、UWBアンカーは8–15 m間隔で配置し、DOP分析を実施すべきです。BLE RSSIは金属環境で±5–8 mに劣化し、UWBはNLOSで±1–2 mに劣化します。TDoAはナノ秒同期が必要です。±3–5 mで十分ならBLE、±30 cmが必須ならUWB、2年以上のバッテリー寿命が必要ならBLEのみ選択肢があります。BLEとUWBシステムは補完的ツールであり、精度要件、バッテリー制約、予算の順に検討すべきです。
